三菱自動車の軽自動車である「eKクロス」にはEVバージョンの「eKクロスEV」というモデルがある。見た目はそっくりな2台。さて、どちらを買った方がお得なのか。価格や性能など多面的に比較してみた。(タイトル写真は「eKクロスEV」)

使い方にあわせてエンジン車とEVが選択可能

三菱自動車の軽ハイトワゴンである「eKクロス」。兄弟車に「eKワゴン」が存在しており、スタンダードな「eKワゴン」に対して、「eKクロス」はSUVテイストのクロスオーバーというポジションをとっている。SUVを得意とする三菱自動車ならではのイメージを前面に押し出したのが「eKクロス」となる。

その「eKクロス」に、2022年6月に追加されたのが「eKクロスEV」。その名称からもわかるようにパワートレーンをモーター&バッテリーにしたEVだ。特徴はベースとなる「eKクロス」そのままのデザインと室内空間を保っていること。また、先進運転支援システムも、ほぼ変わらないものが採用されている。EV専用デザインではなく、同じモデルで、ユーザーがエンジン車とEVを選べるようになっているのだ。

ただし、走行性能や価格はかなり異なる。ベースとなったエンジン車の「eKクロス」のパワートレーンはエンジン+モーターのマイルドハイブリッドだ。エンジン出力は、NA(自然吸気)版で最高出力38kW(52ps)・最大トルク60Nm。ターボ版で最高出力47kW(64ps)・最大トルク100Nm。これに2kW(2.7ps)・40Nmのモーターのアシストがある。

画像: 「eKクロス」。ガソリン車は自然吸気エンジンの52ps仕様とターボの64ps仕様が設定されている。

「eKクロス」。ガソリン車は自然吸気エンジンの52ps仕様とターボの64ps仕様が設定されている。

それに対してEV版の「eKクロスEV」は、最高出力47kW(64ps)・最大トルク195Nm。エンジン車と比べると、最高出力こそターボエンジンと同じだが、トルクはエンジン比較で約2倍。エンジン車のマイルドハイブリッドのモーターアシストがあったとしても、50Nm以上も「eKクロスEV」が勝っている。

実際に試乗してみても、その差は明らかだ。正直、「eKクロスEV」の動力性能は軽自動車の範囲を超えている。とにかく力強いのだ。しかも、モーター駆動ならではの、優れた静粛性とスムーズさもある。走りという点では、圧倒的に「eKクロスEV」が上回っている。

ただし、「eKクロスEV」が、「eKクロス」に劣る部分がある。それが4WDの設定だ。「eKクロス」にはFFと4WDが用意されているが、「eKクロスEV」はFFのみ。降雪エリアに在住で4WDが欲しいというユーザーには残念なことだ。

また、航続距離もエンジン車が勝る。「eKクロス」の燃料タンク容量は27L。燃費21.5km/L(WLTCモード)であれば、満タンから580.5kmを走ることができる。一方、「eKクロスEV」の一充電走行距離は180kmに過ぎない。3倍以上もの差があるのだ。

購入時の価格差はどれだけあるのか

では、実際にクルマを購入するとなると、どのような差があるのだろうか。まず、車両価格は「eKクロス」の場合、146万3000円〜196万3500円。最上位グレードである「T Premium」のFFモデルであれば183万1500円となる。

それに対して「eKクロスEV」の価格は254万6500円〜308万1100円。最上位グレードは「P」の308万1100円だ。この車両価格での2モデルの差は124万9600円。この差は相当に大きい。

また、EVの場合、自宅駐車場に充電設備が必須となる。その設置には10万円ほどかかる。これも価格差に載せる分だ。つまり、車両価格と充電設備をあわせると、2モデルの差は約135万円にもなるのだ。

しかし、現在のところ、EVに対する国からの補助金がある。令和4年度補正予算「クリーンエネルギー自動車導入補助金」で「eKクロスEV」に対する補助額は55万円。また、「eKクロス」では7500円の重量税が「eKクロスEV」では免税になる。つまり、55万7500円分が浮くことになる。さらに自治体ごとの補助金もある。東京都でいえば35万円、埼玉県は27万5000円といった具合だ。

ちなみに、「eKクロスEV」は、新車購入後にある初回の車検でも重量税(5000円分)が免税。さらに毎年の軽自動車税も8100円だけ軽減されている。

定価と充電設備で比較すると、「eKクロスEV」が134万9600円高くなる。そして、補助金と優遇税制で、その差が55万7500円分だけ縮んで、79万2100円になる。これに在住している自治体の補助金があれば、さらに差を縮めることが可能だ。とはいえ、東京都でも44万2100円、埼玉でも51万7100円の差は残る。新車購入時はどう頑張っても、「eKクロスEV」の方が高くつくというのが現状だ。

燃料費としてガソリンと電気はどちらが安い?

購入した後はどうなるのか。税金は、先ほどにも説明したように毎年の軽自動車税(8100円の軽減)と初回の車検の重量税(5000円の免税)の負担が小さくなる。

燃料費はどうか。エンジン車でありターボの「eKクロス」の燃費性能は、21.5km/L(WLTCモード)だ。年間1万kmを走行するのであれば、それに必要なガソリンは約465.1L
。1Lを160円で計算すると1年間に必要な燃料費は7万4416円となる。また、1km走るためにかかる費用は約7.4円だ。

一方、EVの「eKクロスEV」の電費は、124Wh/km(WLTCモード)。1年間に1万kmを走るのであれば、1240000Whの電力を使用する。kWhに換算すると1240kWh。電気料金は住んでいる地域や契約内容によって異なるが、1kWhが20〜30円といったところ。最も高い30円で計算すると、1万km走行すると3万7200円。1km走行にかかる費用は3.72円。つまり、エンジン車の「eKクロス」に対して、EVの「eKクロスEV」は、同じ距離を走るのに約半分しかお金がかからないことになる。

とはいえ、年間1万kmを走行しても、その差は3万7216円。10年かけて37万2160円。毎年の軽自動車税の軽減分が10年間で8万1000円。つまり、新車購入時の約45〜50万円の価格差を覆すには、10年以上の歳月が必要なことになるのだ。

画像: 動力性能はEVがガソリン車を大幅に上回る。しかし航続距離ではガソリン車にとてもかなわない。

動力性能はEVがガソリン車を大幅に上回る。しかし航続距離ではガソリン車にとてもかなわない。

まとめて考えれば、お金だけを見ると、やはりエンジン車とEVでは、エンジン車の方がリーズナブルと言えるだろう。しかし、EVである「eKクロスEV」の走りはエンジン車の「eKクロス」を圧倒的に上回る。その高い性能を、新車時に45〜50万円余分に払って手に入れることができるのだ。

しかも、燃料費はEVが約半額。走るほどに差が縮まる。そういう意味では、優れた走行性能が欲しいと言う人は「eKクロスEV」がおすすめだろう。一方、「4WDが必須」「航続距離180kmは足りない」、さらには「駐車場に充電設備を設置できない」という人は、迷わずエンジン車の「eKクロス」を選ぶべきだろう。

自分がクルマに何を求めているのかを押さえてあれば、「eKクロス」にするか「eKクロスEV」のどちらを選ぶのかは、それほど悩むことはではないはずだ。

●著者プロフィール
鈴木 ケンイチ(すずき けんいち)1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。特にインタビューを得意とし、ユーザーやショップ・スタッフ、開発者などへの取材を数多く経験。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。

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