免許不要で最高速は6km/hと歩行者並み
超高齢社会に突入しつつある日本。免許返納後の移動手段をどうするのか。そんな社会課題を解決する手段のひとつとして、にわかに注目を集めているのが「ハンドル型電動車いす」。シニアカー、セニアカー、電動カートなど呼び名はさまざまだが、自転車のようにハンドルで操作する3輪ないし4輪の電動車いすの総称である。ちなみにセニアカーはスズキの登録商標だ。
方向転換はハンドルで行い、加減速なども原付バイクのようにハンドルについたレバーやボタンで行う。ジョイスティックを使うタイプよりも直感的に扱うことが可能なので、だれでも簡単に運転できる。
2023年4月の改正道交法では「歩行者」と見なされ免許証は不要。最高速は6km/h以下(成人の速足と同等もしくはわずかに速い程度)に制限されているので車道は走れない。歩道がなく路側帯がある道路の場合は右側の路側帯を、歩道も路側帯もない場合は道路の右側を通行するのは歩行者と同じだ。
自分ひとりで歩くことはできるものの、最近は長時間あるいは長距離を歩くのはしんどくなったと感じている高齢者にとって、実に便利な乗り物と言える。
家庭用コンセントで満充電に2.5時間、航続距離は12km
今回発売されたトヨタの「C+walk S」は、前1輪、後2輪(ブラシレスモーター×2内蔵)の3輪ハンドル型電動車いす。前1輪としたのは運転中の前方の視認性向上とともに、段差の乗り越え(最大50mm)を容易にするためでもある。
後輪左右にはモーター(350W×2)が内蔵されており、13.2Ahのリチウムイオンバッテリーによって駆動する。バッテリーはわずか2.5kgとごく軽量。ワンタッチで脱着可能で、充電時には車体から取り外し、家庭用100Vコンセントにつないだ専用の充電器を介して約2.5時間(目安)で満充電にできる。平坦な道であれば、1回の満充電でおよそ12kmの連続走行が可能だ。
操作は実にシンプル。ハンドル左右にあるアクセルレバーは利き手を問わずどちらかを押せば進み、離せば停止する。緊急時には、やはり左右に配置されたブレーキレバーを握ればさらに強力な減速ができる。速度切り替えスイッチにより、最高速を1km/hから6km/hまで6段階に調整できるので、体力や周囲の状況に応じて設定したい。
後退するときもバックボタンを押すだけ。最小回転半径は0.95mで狭い場所での取り回し性能も優秀だ。実用登降角度は10°となっており、坂道でもゆとりをもって走行できる。
曲線を多用したスリムで近未来的なフォルムを採用し、歩道や人が集まる場所でも周囲への圧迫感を抑えている。ステップの高さを130mmに抑えつつ幅広で足を乗せやすく、跳ね上げ式アームサポートの採用も相まって腰を大きくかがめることなく立ち座りできるのも高齢者には大きなアドバンテージとなる。
シート下には容量33L/耐荷重20kg(スーパーの買い物カゴに相当)の収納スペースも用意されている。近所での買い物にも活用できるだろう。
安全装備も充実、トヨタならではの安心感
そして何より注目したいのが、充実した安全・安心の機能である。車速上限は6km/hに抑えられ、車重は58kgと既存のハンドル型電動車いすに比べ大幅に軽いが、それでも歩道や人が集まる場所を走る以上は慎重の上にも慎重を期したいものだ。
“Safety support”には走行時に前方の人や障害物を検知して、警告音とパネル表示で警告し最大約2km/hまで自動減速する障害物検知機能が設定されている(“Safety support”に標準装備)。さらにカーブやハンドルの舵角を検知して自動で減速する旋回速度抑制機能と、降坂時に減速をサポートする急斜面検知機能を全車に標準装備するなど、事故を未然に防ぐ安全性能も充実している。
免許を返納しても、たまには自動車を運転していた時のようにパーソナルモビリティを満喫したい。近所のスーパーに買い物に行きたいが、荷物をもっての家路は足腰にこたえる。そんな人たちの期待に応えるのが「C+walk S」である。
■C+walk S:49万8000円
■C+walk S “Safety support”:50万5000円
※C+walk Sは消費税非課税
C+walk S発売日と同日、C+walkシリーズの第一弾であり立ち乗りタイプの3輪BEV「C+walk T」の一部改良も発表された。従来のC+walk Tは私有地内での移動に限られ公道走行は認められていなかったが、2023年4月に施行される改正道路交通法によって「移動用小型車」に適合した。
新たに「歩行者」とみなされることになり、歩道=公道での走行が可能になった。あくまで歩行者なので車道は走行できず、速度も6km/hが上限になる。新車両要件に適合した新型C+walk Tは5月の発売を予定している。