お手頃価格の量販車として2025年に登場する
フォルクスワーゲンはID.ファミリーの第一弾として2020年に「ID.3」の発売を開始した。以降、6台のEV専用車(「ID.4/ID.4 GTX」、「ID.5/ID.5 GTX」、「ID.6 CROZZ/ID.6X」)を矢継ぎ早に発売している。
そしてこの7台により、2022年11月には計画より1年も早くID.ファミリーの世界販売50万台を達成した。また、ブランド初のMPV「ID.Buzz」や上級サルーンの「ID.7」も2023年内に発売が始まることが明らかにされている。
この快進撃をさらに勢いづけるのが、2023年3月15日に公開された、このコンセプトカー「ID.2all」だ。コンセプトカーと銘打ってはいるが、リアリティはほぼ市販車と呼べるほどで、実際に2025年には欧州向け量産モデルが販売予定であることが明らかにされた。ID.3以降、ファミリーの拡大はアッパーレンジに集中していたが、いよいよダウンレンジへの侵攻も開始されるわけだ。
ID.2allには数々の新機軸が盛り込まれ、ID.ファミリーが新たなステージに踏み出すことを暗示している。まず注目すべきは、「MEB Entry」と呼ばれる前輪駆動の電動車専用プラットフォームを初めて採用したことだ。現行ID.ファミリーは、すべて駆動モーターをリアに積む後輪駆動に主軸を置いたMEBプラットフォームを採用してきた(全輪駆動はフロントにモーターを追加)。
ID.2allはMEBプラットフォームをベースとしながらも、新たに前輪駆動をメインに据えるMEB Entryを初採用することで、アッパーレンジ車の美点を継承しつつ、ポロ同等のコンパクトなボディサイズとゴルフに匹敵する室内空間や積載容量(490〜1330L)を実現しているのだ。
ボディサイズは、全長4050×全幅1812×全高1530mm。日本仕様のポロは全長4085×全幅1750×全高1450mmなので、ID.2allの方がほんの少し大きいが、コンセプトカーであることを考慮すれば、その差はごくわずか。むしろ全長はポロより35mm短く、ホイールベースはポロより50mmも長い2600mmであるところに注目したい。
一見するとポロのイメージが濃厚に漂うが、ボディ四隅を削ってホイールベースを延長するそのパッケージは、内燃機関のクルマとは一線を画す絶妙な設定だ。
市販モデルには、ID.ファミリーの一員に相応しい数々の先進技術が搭載される予定だ。部分的な自動運転を可能にする「Travel Assist」は最新バージョンが採用されるほか、LEDマトリックスライト「IQ.Light」、「3D LEDライトクラスター」、メモリー機能付き「Park Assist Plus」、「ID.Light」などID.ファミリーのアッパーレンジ車に採用される装備はID.2allの市販車にも採用される。
また12.9インチのタッチ式インフォテインメントディスプレイ、新開発の左右独立式空調パネル、あえてアナログ式を採用したインフォテイメントシステムの音量コントローラーなど、先進技術を搭載しながら使い勝手にも配慮されたコクピットも好印象だ。
前輪を駆動するバッテリーの出力は166kW/226ps。0→100km/hの加速は7秒以下とコンパクトなボディに十分以上のパワーを発揮する一方、WLTPモードによる航続距離は最大450kmと電費も優秀だ。急速充電ではわずか20分でバッテリー容量の10〜80%を満たすことができる。
コンパクトカーながら十分な居住性や動力性能が与えられたID.2all。この1台があれば、日常使いからロングドライブまでこなすことができる。その市販モデルの欧州販売価格は2万5000ユーロ以下のベース価格を目指すという。
さらにベーシッククラスも用意、攻勢を一段と強めるVW
新たなID.ファミリーの門出となるID.2allの公開に合わせ、2023年3月以降、2026年までに10車種の新型EVを発売することも明らかにされた。さらなる電動化攻勢を加速させて、最終的には欧州でのEV販売比率を80%まで引き上げるのが目標だという。
すでに発売または発表されているID.ファミリーは7車種。今後そのラインナップに新たに加わる10車種の動向を予想を交えて検証してみよう。
まず、2023年中には上記10車種に含まれる「ID.Buzz」と「ID.7」が発売される。また3月にフェイスリフトが発表された「新型ID.3」もこの中に含まれる。さらに、北米市場向けにID.7をベースに開発が進む7シーターの大型SUV(「ID.8」と「ID9」か?)が2024年中には発表される可能性が高い。
ID.2allに続き、コンパクトクラスSUV(「ID.2クロス」?)が2026年にラインナップされることも明らかにされている。また、販売価格を2万ユーロ以下に抑えたベーシッククラス車(「ID.1」?)の開発も進んでいるようだ。
となれば、残るセグメントはアルテオン/同シューティングブレークに相当するサイズのスペシャリティモデルか、もしくは現行モデルのフェイスリフトモデルか。近日中に何らかのインフォメーションがあるかもしれない。
日本にはまだID.4しか導入されておらず、ID.Buzzは発売が告知されたもののまだ1年半以上も待たなければならない。とは言え、諸条件が整えば未上陸のID.ファミリーも続々と導入されるだろう。そのころには、内外のブランドも続々と新型EVを国内市場にも投入してくる。EVと内燃機関自動車のせめぎ合いがいよいよ本格化するだろう。