台湾の電機大手「鴻海精密工業(ホンハイ/Foxconn)」が、日本の自動車業界でにわかに存在感を高めている。三菱自動車へのOEM供給、シャープとの共同開発と重大発表が相次ぎ、先日は日産自動車との協業検討の開始が報道されるなど、そのアプローチが注目を集めている。世界最大手のEMS企業が目論む新たな自動車産業のカタチとは?

タイトル写真:2024年12月25日付でSMJがアップした記事、ホンダ・日産の経営統合問題に突如現れた第3のプレーヤー「鴻海」とは。そしてその目的は?

追浜工場で、日産と鴻海が共同生産の可能性

2025年7月6日、日本経済新聞(電子版)が「日産自動車が台湾電機大手の鴻海(ホンハイ)精密工業と電気自動車(EV)分野の協業に向けて協議を始めた」と報じた。記事によれば、稼働率が低下している日産の追浜工場(神奈川県横須賀市)を、EV生産で共同利用する案も浮上しているという。

これに対して日産は、「当社の追浜工場に関する記事が配信されていますが、本報道は当社が発表したものではありません。当社はRe:Nissanの取り組みで、グローバルな生産拠点の統合や閉鎖について検討を進めていますが、これまでに発表した2拠点以外に最終決定したものはありません」と明確に否定。「今後ともステークホルダーへの透明性を維持し、決定したことがあれば、適切なタイミングで情報を提供します」と反論している(引用:日産自動車プレスリリースより)。

もっとも日経記事の配信直後から世界中の大手メディアが追従していることから、日産と鴻海のあいだで協業に向けた具体的な話し合いが始まっていると判断して間違いはなさそうだ。実現すれば、閉鎖候補に挙がっていた追浜工場は、一転、存続することになり、経営再建の追い風となるだろう。サプライヤーにとっても、新たなビジネスチャンスが舞い込むことになる。

受託生産という新しい自動車産業の在り方を日台で発信

iPhoneの生産受託をはじめ、日本のシャープを傘下に収める世界最大手のEMS(電子機器受託製造)企業として知られる鴻海。EV事業への進出を打ちだしたのは2020年10月、翌21年にはEVの開発を行う「鴻華先進科技股份有限公司(以下、Foxtron)」を立ち上げて、以来、毎年のようにコンセプトカーを発表している。

そのビジネスモデルは従来の自動車産業の常識を覆すもの。既存の自動車メーカーは、企画・設計・開発から生産まで、すべて一貫して自社で行うのが通例だ。一方、鴻海では設計・開発から生産は行うものの、基本的にはすべてレディーメイドであり受託生産だ。

細部の仕様やチューニングは、顧客となる自動車メーカーの意向に沿って変更される。同社が毎年のように発表してきたコンセプトカーはまさにその見本であり、EMS最大手ならではの発想ともいえる。ちなみに、Foxtronの手掛けるEVはすべてSDVであり、随時OTAによるソフトウェアの更新=性能向上が可能だ。

画像: 最新のコンセプトカーは「Foxtron Model U」。2027年度までに日本市場に導入する計画。

最新のコンセプトカーは「Foxtron Model U」。2027年度までに日本市場に導入する計画。

そんな同社が2025年4月9日に東京都内でEV事業戦略の説明会を開催。2027年度までにバスや乗用車など複数のEVを日本に投入するほか、開発・生産領域における日本メーカーからの受託や協業に意欲を示した。

第一弾は三菱自が豪州で発売する「Foxtron Model B」ベースのSUV

そして、その顧客第一号となったのが三菱自動車だった。2025年5月7日、三菱自はFoxtronとEVのOEM供給について覚書を締結したと発表。2026年後半に、Foxtronが開発して台湾(「裕隆汽車」)で生産するEVをオーストラリアとニュージーランドで三菱車として発売することを発表した。車両の詳細については言及されていないが、ベースとなるのは「Foxtron Model B」となる可能性が高く、そこに三菱独自の意匠や装備が盛り込まれることになりそうだ。

シャープのEV進出第一弾は「Foxtron Model A」ベースのミニバン

鴻海傘下の日本企業と言えばシャープ。同社は、2025年6月17日、東京都内で開催した事業説明会において研究開発中のEVについてその概略を説明した。同社は昨年9月にEV事業参入の意向を表明しており、そのコンセプトモデル「LDK+」を公開している。

画像: 三菱自が2026年後半より豪州で発売を開始するEVのベース車と見られる「Foxtron Model B」。  smart-mobility.jp

三菱自が2026年後半より豪州で発売を開始するEVのベース車と見られる「Foxtron Model B」。

smart-mobility.jp

今回、その量産車のベースとなるのは「Foxtron Model A」であることがはじめて明らかにされた。鴻海の年次イベント、ホンハイ・テック・デイ2024(HHTD 2024)で発表された全長4.3mのコンパクト~ミディアムクラスの5人乗りMPVである。発表時にも、日本市場向けに開発されたことが明言されており、ファミリーユースやタクシー、商用車など文字どおりマルチパーパスなEVとして位置づけられていた。その初めての顧客が(鴻海の傘下ではあるが)日本のシャープだったわけだ。

シャープでは、車内を「リビングルームの拡張空間」と位置づけ、Foxtron Model Aをベースに「止まっている時」にフォーカスして開発を進めているとのこと。リビング・ダイニング・キッチン(LDK)にもうひと部屋プラスするという発想で、家電開発で培った機能やエッジAIも搭載してシャープならではの手ごろな価格のEVとして発売するというから楽しみだ。

そして、最後に指摘しておきたいのはこの「LDK+」が日産の追浜工場で生産される可能性だ。今後、日産と鴻海の話し合いがどのように進むのか、そして新たなサプライチェーンの構築など課題が山積しているものの、日本市場にフォーカスした「Model A」ベースのEVは、やはり日本国内で生産するのが合理的ではある。

あくまで憶測ではあるのだが、シャープではLDK+の発売を2028年3月期までの3カ年中期経営計画のひとつと位置付けていることから、2027年度中には発売される可能性が高い。冒頭紹介した日経新聞の記事とタイミング的には符合する。果たして、LDK+はメイド・イン・ジャパンとなるのだろうか。鴻海が牽引する自動車業界の新たな潮流から目を離せない。

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