“EVで使う電力は火力発電に頼っていいのか?”
EVに興味を持ち購入を考えている人、あるいは既に購入した人。よく決断したと思いますが、みなさんがEVを所有するに当たって一番の懸念はやっぱりバッテリーに関することだったんじゃないですか? ライフはどのくらいなのか、満充電にしたらどのくらいの距離を走れるのか、充電施設は十分あるのか・・・なんやかや。
こうした心配や疑問はいつまで抱いていなければならないのでしょうか? そろそろユーザーも限界で、そんな心配ばかりしなけりゃいけないならEVは諦めるか、というところまできている感じ。もちろん自動車メーカーもバッテリーメーカーも開発には必死で取り組んでいる。ライフの長いバッテリー、全固体電池のようにコンパクトで長持ちする新技術バッテリー・・・それでもまだまだ心配は残る。
先日来、輸入車メーカーのEVを借りだして何度か長距離を走ってきた。その感想を言えば、長距離を走ってもバッテリーが空になる心配は皆無だった。それは、輸入車メーカーから借りだしたEVがいずれも上級クラスのクルマだったから。大きなバッテリーを積み、一度充電をすると600kmは走破できた。そのとき、小型EVの抱える苦悩にまで考えは及ばなかった。急速充電は使えず、普通充電に時間がかかる。それでいて走行距離は短い。普通にEVを購入するユーザーは誰しもこの問題に突き当たるのだ。体験してみて初めて分かることがいくつもある。
充電時間に関しても、小型EVに乗る人は問題を抱える。小型EVは往々にして急速充電は出来ない。搭載バッテリーの性能がそうさせるのだが、普通充電となると時間がかかる。急速充電なら30分を一目安としてかなり大きなバッテリーでも満充電(といっても80%)可能だ。しかし、普通充電では30分ではとても追いつかない。そこで、小型EVを所有する人に対して、自動車メーカーは簡易充電器を無料で家庭に取り付けるサービスを行い、EVを使用しない夜間に充電を推進してきた。なるほど、これなら効率がいい。
ところがここに来て風向きが変わってきた。夜間充電やばいんじゃねぇ? 何を根拠にそう言うか。それは、この先多くのEVが街に溢れたとき、ユーザーが一斉に夜間充電を行えば、電気を作る火力発電所が全開で仕事をしなくてはならず、それは大量のCO2排出につながるという調査結果が示されたからだ。そこで、根源的な問題に立ち返る。なぜEVに乗るのか? 地球環境の保全、そのためのCO2削減のためではないのか? となると、EVに充電する際に多量のCO2を排出する火力発電に委ねていいのか、という問題に突き当たる。いいわけないでしょ。そこで、再生エネルギーを多用できる昼間の充電を勧めることになる。
まあ、考えてみれば簡単なことです。でも、理解するには我が国の発電状況を知らなければならないし、そもそも電気はどうやって作られているかを知らなきゃいけない。夜の東京の街を見れば、林立する高層ビルの窓は明かりで埋め尽くされています。それらのほとんどが火力発電による電気のおかげなんです。そこにEVが追い打ちをかける(というほどのものではないですが)。心配になりますよね。
環境省が昼間充電の推進に動き出したのはいい兆候だと思います。2022年のエネルギー供給構成を見ると、石炭・石油・天然ガスの化石燃料(つまり火力発電)への依存度は83.2%。その他では原子力が3.2%、水力が3.6%、そして風力・太陽光などの再生エネルギーが10.0%となっています。
このうちEV充電などが昼間の再生エネルギーを多用する方向に進めば、夜間の化石燃料発電の割合が少しでも減るのではないでしょうか。もちろん、現在EVが使用する電気の量は微々たるものです。それでも、これから先EVは必ず増加します。それに、EVの登場はこれまで電力会社が想定していなかった事態。そこにお邪魔するEV。ユーザーの慎重な対応が求められますね。
地球は誰のものでもありませんが、そこに住むみんなのものです。その地球をEVユーザーが壊すことは許されません。様々な方法で作られ、供給される電気はしっかりと管理して使わなければなりません。EVを所有する一個人ユーザーも、自分の責任として心に刻んでください。
ここに、日本の一次エネルギーの供給構成の推移、さらには充電の時間帯によるCO2排出量と削減効果イメージ図を紹介します。EVが1km走行するときのCO2排出量の差が分かります。(了)
●著者プロフィール
赤井邦彦(あかいくにひこ)自動車雑誌編集部を腰掛け(!?)にしたあと1977年に渡英、4年間にわたって欧州の自動車事情、自動車レース(主としてF1)を取材。国内外の雑誌に寄稿。帰国してからは事務所を立ち上げ、自動車関連の分野を中心に海外取材コーディネート、広告コピー制作、単行本の執筆などを行う。現在、自動車レース関係のウエブサイトを主宰。英Guild of Motoring Writersの会員。