温度に左右されず安全性が高くエネルギー密度も高い
読んで字のごとく、電解質に従来の液体ではなくゲル状、あるいは粘土や樹脂などの柔らかい物質を使ったのが「半固体電池」。正極と負極の間をイオンが移動することによって充放電する原理そのものは、全固体電池を含め他のリチウムイオン電池と変わりはない。電解質を液体ではなく半固体化することで安定性や安全性を大幅に高め、かつエネルギー密度も向上するので充電スピードの短縮や高出力化に対応できる。
一方、次世代電池の本命と言われる全固体電池は、電解質に液体成分を含まない完全な固体であり安定性、安全性そしてエネルギー密度ともに理想的ではある。しかし、自動車のような過酷な使用環境では多くの課題を残しており、それらをいち早く解決したトヨタ/出光興産が他社を大きくリードしているのが現状だ。
それゆえ半固体電池は、全固体電池の普及期までの中継ぎと言われることもあるが、量産が比較的容易でかつ生産コストを抑えることができるため、将来性は全固体電池との使い分けになるという声もある。既存のバッテリー生産ラインをそのまま利用できるので、電池サプライヤーにとっても取り組みやすく、結果的に製造時のCO2排出量を抑えることができるエコな電池でもある。
すでに三元系リチウムイオン電池(NMC:ニッケル・マンガン・コバルトあるいはNAC:ニッケル・アルミ・コバルト)は技術的には限界に近づきつつある。それに代わる次世代電池として、期待を寄せられているのが半固体電池なのだ。
半固体電池は大きく3つのタイプに分類
実は半固体電池の定義は曖昧で、「準固体リチウムイオン電池」あるいは単に「固体電池」と呼ばれることもある。その構造は、使用される電解質によって概ね以下の3タイプに区分されるので、これらに当てはまれば「半固体電池」と呼んでいいだろう。
●ゲルポリマー型:ゲル化した電解質を採用。形状の自由度が高い。
●クレイ型:電解質を粘土状の物質に練りこんで電極として使ったもの。液漏れや発火のリスクを大幅に低減している。
●液添加型:電極部材に少量の電解液を染み込ませたもの。気温などの熱変化に対して安定している。テスラやフォルクスワーゲンが開発している「ドライ電極」も液添加型の一種に含めることができるが、液体の電解質も併用している。
半固体電池は、全固体電池と同じく新しい技術であるがゆえ、現段階ではまだ実用例はそれほど多くはない。とは言っても、すでにポータブル電源を始め一部の家電製品などで採用が始まっている。
京セラ、日本碍子、富士フイルムなど日本の素材メーカーが素材開発・生産や提携に積極的に乗り出しており、日本の自動車メーカーでは唯一ホンダがパートナーとの共同開発を進めている。今後、自動車などの電動モビリティに限らず、さまざまな分野で半固体電池の採用が急速に進んでいくと予想されている。
EV用半固体電池も実用段階に
自動車用として大型化・量産化されるのは2025年以降と言われていたが、いち早く車両に搭載したのが交換式バッテリーで知られる中国のプレミアムEVメーカー「NIO(ニオ)」だ。
同社は2021年1月にEV用半固体電池を開発中であることを発表していたが、翌22年3月にフラッグシップセダン「ET7」の発売会のなかで半固体電池の実用化が近いことを宣言。150kWhの半固体交換式バッテリーパック(モデル)も公開し、そのエネルギー密度は360Wh/kgという全固体電池に並ぶ驚異的な数値であることが明らかにされた。
半固体電池セルの生産は中国の中堅バッテリーメーカーであるWeLion(ウェライオン)社で、NIOがバッテリーパックにアッセンブルしている。2023年12月には、このバッテリーパックを搭載した「ET7」で1000km以上(1044km)を無充電で走破する模様をライブストリーミングして中国では大きな話題となった。もっとも、量産化が進んでいない現時点では非常に高価なバッテリーとなっており、一般ユーザー向けにはこの4月以降にようやく交換用レンタルとしてリリースが開始されるようだ。
残る課題は量産化へのロードマップ
車載電池の世界シェアでトップに立つ中国CATLも、次世代電池の本命は全固体電池であると位置づけながらも、当面は半固体電池にも注力する構え。ここに日本勢や米国勢も加わって、全固体電池開発の前哨戦的な様相となっている。
従来の三元系リチウムイオンバッテリーに代わり半固体電池が今後急増することは間違いなく、全固体電池の量産化が実現する2030年代までは、LFP(リン酸鉄イオン)電池と半固体電池が自動車に限らず市場のメインストリームになっていく可能性が高い。スマホのバッテリーもごく近い将来、半固体電池に置き換えられていくだろう。