電気の効率的な使用で節約にもつながる
HEMS(ヘムス)とは“Home Energy Management System”のこと。家庭で使う電気の使用量や稼働状況を利用者自らが確認・管理するシステムで、政府は「2030年までにすべての住まいに、HEMSを設置することを目指す」(平成24年「グリーン政策大綱(内閣官房 国家戦略室)」より)としていた。
2016年4月から始まった「電力小売り自由化」と前後して、HEMSに不可欠な通信機能を備えた次世代型電力メーター「スマートメーター」も登場して、2024年度に全家庭への設置完了を目標にしている。
もっともHEMSの普及率はまだ160万世帯(2020年末時点で全世帯のおよそ3%)と、2030年の目標達成(およそ5,000万世帯)にはまだ程遠いのが実情だ。にもかかわらず、いま再びHEMSに注目が集まっているのは、エネルギー需要のひっ迫による電気料金の大幅な値上げ、それに伴って節電意識が大きく高まっているからだ。
では、HEMSを導入するとどんなことができるのだろうか。最大のメリットは、家電・太陽光発電装置・エコキュート、さらにEVの充電器などを相互接続して、家庭内での電気使用量を利用者自らが最適化できることだ。電気を使いすぎている時間帯や機器、コンセントなどが一目両然となり、節電が容易になる。
また、対応する機器を接続することで、家電製品の一括管理やスマホなどを使った遠隔操作が可能になる。たとえば室内灯の消し忘れや、帰宅前にエアコンに電源を入れて帰宅時に最適な室温に調整しておくことなどもできるのだ。
電力小売自由化に伴い多様化した電気料金プランの見直しなどでもHEMSは活躍する。自由化に伴い、電力事業にはガス会社や通信会社を始め異業種が多数参入してサービスや料金を競っている。HEMSを設置すれば、時間帯や曜日など各世帯で使用する電気量を見える化できるので、きめの細かい料金プランへの乗り換えが可能になる。
消費者が自らエネルギーを管理する時代へ
HEMSの導入がいまひとつ進んでいないのは、その認知がまだ一般的になっていないこと、そして導入に関する費用がいまひとつ明確になっていないからだろう。政府主導でありながら、PR活動や初期費用の補助など、現状では十分であるとは言えない。
認知度はともかく、HEMSを導入するには、分電盤に電力測定ユニットを設置し、それにHEMS対応の電気機器や家電を購入・接続してネットワーク化する必要がある。トータルで(どこまでやるかにもよるが)数十万円の出費となり、節電できる電気代と天秤にかければ回収するにはかなりの時間がかかる。
しかも、2023年現在でHEMS導入に直接関係する国の補助金は支給されていない。もっとも、間接的には「DER(分散型エネルギーリソース)補助金」「次世代HEMS実証事業補助金」などは存在しており、さらに自治体が独自に設定しているHEMS補助金も多いので、これらをうまく組み合わせれば費用の回収スピードは大幅に短縮される。
こうした現状を踏まえた上で、やはりHEMSの導入は検討すべき時期に来ているのではないだろうか。政府は2014年4月に新築住宅の「省エネ基準」を閣議決定、経済産業省はそれをうけて、ZEH(ゼッチ=net Zero Energy House)、いわゆる省エネ住宅の新たな定義づけとその実現に向けたロードマップを作成している。
その中で注目すべきは「家庭で消費する電力は家庭で創る」という考え方だ。つまり、より厳格化された断熱性、太陽光発電パネルや蓄電システムの設置、さらに給電可能なEVなどと組み合わせて、使用するエネルギーと創出するエネルギーを高度にバランスさせる新しい住宅を増やそうという考え方である。その際に“頭脳”“司令塔”となるのがHEMSなのだ。
ZEH(ゼロ・エミッション・ホーム)の住宅は建築時には従来に比べて割高ではあるが、徹底的な省エネや太陽光発電によってエネルギーコストの大幅な低減が可能になる。また蓄電システムによって停電時を始め災害にも強い。
ちなみに2030年には新築住宅のZEH基準が義務化されるが、こちらはあくまで建物の断熱性などの省エネ性能を定めた“ZEH基準”を義務付けるもので、太陽光発電設備などの設置を直接強制するものではない。
とは言えZEHに適合した新築物件が急増し、太陽光発電も身近になっていくのは間違いない。一方で築年からある程度経っている住宅でも、HEMS導入の効果はあるだろう。消費者が自己責任でエネルギーを管理する時代の到来は、もう目前に迫ってきているのだ。