3年目を迎えたフォーミュラE 東京 E-Prix(Formula E Tokyo E-Prix/2026年7月25-26日)は猛暑に加え、日曜日の日中にゲリラ豪雨が直撃するという極端な気象条件下での開催となった。最大950Vの大電力を扱うEVマシンや、仮設の超急速充電システムは、この過酷な環境下で破綻することなく稼働できたのか。

悪天候下でも揺るがない独立電源

会場の裏手に足を踏み入れると、都市のエネルギーインフラの未来を示唆する光景が広がっていた。Aggreko社製の巨大な仮設発電機群である。今回の東京E-Prixでは、既存の商用電力網だけに依存せず、CO2排出量を最大90%削減するHVO(水素化植物油)燃料を用いた仮設発電システムが導入された。

この独立したオフグリッド電源が、ゲリラ豪雨と落雷のリスクに晒されながらも、会場全体の膨大な電力需要や20時05分スタートのナイトレース用照明を瞬断することなく安定供給し続けた。

画像: 会場裏手に設置されたAggreko社の巨大な仮設発電機。従来の軽油に代わりHVO(水素化植物油)燃料を使用することで、CO2排出量を最大90%削減しつつ、ナイトレースの膨大な電力を安定供給する。

会場裏手に設置されたAggreko社の巨大な仮設発電機。従来の軽油に代わりHVO(水素化植物油)燃料を使用することで、CO2排出量を最大90%削減しつつ、ナイトレースの膨大な電力を安定供給する。

悪天候時の瞬低(※)を防ぐ無停電電源装置(UPS)を組み合わせた運用体制は、災害時に孤立した都市エリアへ電力を供給するマイクログリッドの理想的なモデルケースと言える。

※落雷や障害物が送電線に触れることで送電網の電圧がごく短い時間だけ低下する現象。

パドック裏に設置されたFortescue ZEROのテント内では高電圧バッテリー管理機材が整然と稼働し続け、またピット内のメカニックたちは万全の絶縁対策のもと、水しぶきが残る路面であっても一切のパニックを起こさず、ファンが見守る中で極めて冷静に作業を進めていた。浸水や漏電といったEV特有のリスクを「日常」として制御し切るこのプロトコルこそ、都市部のEVインフラが備えるべき究極の安全基準である。

インフラ面におけるもうひとつの技術的ハイライトが、レース中に30秒間で10%(3.85kWh)の電力をバッテリーに叩き込む新ルール「PIT BOOST」を支える超急速充電システムである。

ピットレーンに設置されたABB製の「Formula E Race Charger」は、600kWという途方もない最高出力を誇る。高温多湿かつ雨上がりの悪条件の中で、この超高出力コネクタを安全にマシンへ接続し、短時間で膨大なエネルギーを移送するオペレーションは、次世代の高速道路PAや商業施設における商用EV向け超急速充電インフラの耐久性を実証する極めて重要なデータとなる。

ピーク時の電力負荷を会場全体でどう平準化するかというエネルギーマネジメントの観点からも、貴重な知見をもたらした。

画像: 出番を待つハンコックの公式レースタイヤ「iON」。全体の35%に再生・持続可能素材を採用しており、灼熱のドライ路面から大雨のフルウエットまで、この1種類のみで対応する全天候型の性能を誇る。

出番を待つハンコックの公式レースタイヤ「iON」。全体の35%に再生・持続可能素材を採用しており、灼熱のドライ路面から大雨のフルウエットまで、この1種類のみで対応する全天候型の性能を誇る。

ハードウエアの強靭さに加え、車両側の制御技術も極限の環境下で真価を発揮した。豪雨から一転、強い日差しにより急激に乾いていくマダラな路面状況は、EVのトラクション制御システムにとって最悪のシナリオである。

しかし、今季の「GEN3 Evo」から新たに搭載された4WDシステムと、再生・持続可能素材を35%使用したハンコックの全天候型タイヤ「iON」は、ウエットからドライへの急激な変化に対し、タイヤ交換を行うことなく見事に適応してみせた。

決勝で3位に入ったジェイク・デニスが「タイヤの内圧を含む戦略が完璧に決まった」と語ったとおり、環境の変化を受けても性能や機能の安定性を保つハードウエアとデータマネジメントの融合が、複雑な路面環境下でのパフォーマンスを決定づけている。

画像: 屋内のファンビレッジに設置された給水ステーション(Hydration Station)。猛暑のなか来場者のオアシスとして機能し、無料配布のエコカップへの給水を通じてサスティナブルなイベント運営と熱中症対策を両立させている。

屋内のファンビレッジに設置された給水ステーション(Hydration Station)。猛暑のなか来場者のオアシスとして機能し、無料配布のエコカップへの給水を通じてサスティナブルなイベント運営と熱中症対策を両立させている。

テクノロジーの証明と並行して、都市イベントとしての「人流コントロールと空間設計」も大いに機能した。猛暑対策として「給水ステーション」や「Cool Net Tokyo」ブースが随所に配置されただけでなく、急な雷雨の際には、巨大な屋内施設である東京ビッグサイトのコンコースが数万人の観客を収容する巨大なシェルターとして機能した。

優勝したニック・デ・フリースの「路面変化を見越したエネルギーの温存が重要だった」という言葉は、そのまま次世代EVの効率的なエネルギー管理の最適解を示唆している。酷暑と荒天という二重の試練を潜り抜けた東京 E-Prixのインフラ構築と運用データは、今後頻発するであろう極端な気象に耐えうる、「未来のスマートシティ」の設計図を描くための極めて価値の高い実証結果となったのである。


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