商船三井が取り組んでいる水素生産船「ウインドハンタープロジェクト」が、「NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)」の補助事業として採択された。ウインドハンタープロジェクトは2020年11月からスタートしており、船底に装着した発電用タービンによって水素を生成するプロジェクト。将来のエネルギー生成戦略として、国内外から注目を大きな集めている。そのあらましを俯瞰してみよう。(タイトル画像は「ウインドハンター大型水素生産船」のイメージCG。出典:商船三井HP)

動く発電所+水素製造工場がNEDOの助成を得て開発を加速へ

次世代クリーンエネルギーの有力候補と言われながら、その製造や運搬の方法など解決しなければならない課題が山積している水素。その課題解決に向けたテクノロジーの開発が、さらに加速しそうな気配である。

去る2025年6月3日、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の補助事業に、商船三井が推進しているウインドハンタープロジェクトが採択された。水素社会実現の可能性を調査・研究する「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発」水素製造・ポテンシャル利活用事業として、NEDOがその関連費用の一部を助成する。

ウインドハンターは、風力によって航行する帆船(ウインドハンター)の船底に発電用の水力タービンを取り付け、その推進力(水流)によってタービンを回して発電、その電気で海水を電気分解することで水素を得るのが原理だ。海上を動く発電所であり、水素製造工場でもある。極論すれば、水素そのものの生産にかかるコストはゼロであり、温室効果ガスの排出もない究極のゼロエミッション事業でもある。

画像: 「ウインドハンター」のイメージCG。航行は基本的に風力であり、船底に装着された水力タービンから供給される電気によって、海水から水素を取り出す。

「ウインドハンター」のイメージCG。航行は基本的に風力であり、船底に装着された水力タービンから供給される電気によって、海水から水素を取り出す。

生産された水素をそのまま貯蔵・運搬をするのは難しいため、船内でトルエンと結合されてメチルシクロヘキサン(MCH)という液体に変換されて蓄えられる仕組みである。これが満杯になるまで航行を続ける。

陸揚げされたメチルシクロヘキサンは、再び水素とトルエンに分離され、水素は貯蔵施設などへ、トルエンは再び船内に戻される。もっとも現時点ではこの段階でのエネルギーロスが大きく、本格的な実用化に向けた大きな課題となっているのも事実だが。

日本も捨てたもんじゃない! 「ウインドハンター」のスゴい技術

対して、船体に採用される技術はすでに実用化一歩手前(一部はすでに実用化)まで来ている。

ウインドハンター最大の特徴は、完全無人化された遠隔監視によって航行できることにある。限度こそあるが、風が強く荒れた海ほど水素の生成効率は高くなる。しかし、乗員の安全性を考えれば大時化(おおしけ)の中を有人で運行させるわけにはいかない。そこで、遠隔化することで通常の船舶が避ける荒れた海へみずから向かう無人航行が採用される。

画像: 無人化された船内。一応、コクピットはあるが通常は使用されない。

無人化された船内。一応、コクピットはあるが通常は使用されない。

そしてもうひとつ重要なテクノロジーが、商船三井と大島造船所が開発した「硬翼帆(こうよくほ)式風力推進装置=ウインドチャレンジャー」の採用だ。帆船というと帆布を連想するが、こちらはガラス繊維強化プラスチック(GFRP)複合材製で4段階に伸縮調整が可能。可動部は天候や風向きなどのデータをICTを通じて取得・解析して自動制御される。こちらはすでに実用化されており、2022年には石炭運搬船「松風丸」が竣工したほか、2035年度までに80隻への搭載が目指されている。

画像: 「硬翼帆式風力推進装置=ウインドチャレンジャー」はすでに実用化。内燃機関を搭載する船舶の一航海あたりの燃費を5~8%ほど削減する(写真は「松風丸」)

「硬翼帆式風力推進装置=ウインドチャレンジャー」はすでに実用化。内燃機関を搭載する船舶の一航海あたりの燃費を5~8%ほど削減する(写真は「松風丸」)

また入出航時には船内に格納されたドローンが活躍。係留作業はもちろん、メチルシクロヘキサンの陸揚げ作業へのドローン活用が検討されている。

すでに洋上で生産されたグリーン水素が世界で初めて陸揚げに成功

なんとも夢のような話と思われるかもしれないが、実は2025年3月には実証用ヨット「ウインズ丸」を用いた実験で、東京湾において洋上風から生産したグリーン水素(※)を世界で初めて陸揚げすることに成功している。船上での水素生産・貯蔵、および貯蔵した水素の船上利用の一連のサイクルは、2021年度から2023年度にすでに成功させていた。

※風力や水力、太陽光など再生可能エネルギーを由来とした電力で生産(電気分解)された水素のことで、製造過程から燃焼に至るまでCO2を排出しない。

画像: 「ウインズ丸(写真左)」と船内に設置されたメチルシクロヘキサン(MCH)変換装置。水素ガスのままでは困難な管理や運搬を容易にした。

「ウインズ丸(写真左)」と船内に設置されたメチルシクロヘキサン(MCH)変換装置。水素ガスのままでは困難な管理や運搬を容易にした。

今回は、船内でメチルシクロヘキサン(MCH)に変換することで、ガスのままでは困難な水素エネルギーの管理や運搬を容易にすることで初の陸揚げに成功している。

NEDOの補助を得たことで、今後はさらに大型の実験船の建造が期待できそうだ。エネルギー資源のほぼすべてを輸入に頼り、そして四方を海に囲まれた日本が、独自に生産できる新たなエネルギー開発事業として、今後の動向には注目しておきたい。

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