フォルクスワーゲン(以下、VW)のモビリティサービス会社モイア(MOIA)は、2025年6月17日〜19日にドイツ・ハンブルクで開催された国際公共交通会議(UITP)サミットにおいて、これまで試験走行を重ねてきたID.Buzz ADによる自動運転のライドサービスを7月から同市で提供を開始すると発表しました。当初の運行台数は30台程度でドライバー同乗になりますが、2027年からはドライバーなしでの走行を計画しています。米国では6月22日に、テスラがテキサス州オースティンで10数台のモデルYで投資家やインフルエンサーなど招待客限定でロボタクシーの供与を開始。先行するウェイモ(Waymo)は、フェニックス(アリゾナ州)、サンフランシスコ、ロサンゼルス、オースティンに加え、2026年中にアトランタ、マイアミに運行地域を拡大します。老舗の自動車メーカーとしては唯一、ハードウエアから運行管理ソフトウエアまで包括的な自動運転サービスプラットフォームの提供するVWは、自動運転プロバイダーとして存在感を高めていけるでしょうか。(タイトル写真はハンブルク市内を走行するID.Buzz AD)

VWのモビリティシステムは都市でのライドプーリングを想定

VWの取り組みがウェイモやテスラと違うのは、ロボタクシーとしてのサービス展開をはかる両者に対して、都市でのライドプーリングを主眼としている点です。複数箇所でユーザーをピックアップして目的地に向かうライドプーリングは、地下鉄や路面電車、バスなどの輸送を補完し、自家用車から公共交通機関へのモビリティシフトを促します。VWとMOIAは、ハンブルク高架鉄道(Hamburg Hochbahn)や15人乗りの自動運転シャトルを製造するHolonとともに、ハンブルク市がドイツ連邦交通省の支援を受けて推進する自動運転モビリティプロジェクト「ALIKE」に参画しています。

今回のUITPサミットに姿を見せたVWのオリバー・ブリューメCEOは、「SAEレベル4に準拠した自動運転車両から、フリートマネジメントシステム、顧客予約アプリまで統合されたエコシステムで、地方自治体やフリートオペレーターがすぐに稼働できる『ターンキーソリューション』を提供する」と、今後の欧州各地や米国での展開に自信を見せました。

ロボタクシーで先行するウェイモも、以前はミニバンのクライスラー パシフィカを使用しており、今後は現行のジャガー I-PACEに代えて吉利汽車のジーカー(Zeekr)のミニバンを導入するので、ライドプーリングに対応することは可能でしょうが、現状は個人客向けのタクシーサービスとなっています。あくまで低コスト化が可能なロボタクシーを想定する米国と、渋滞の緩和やCO2排出量の削減、交通弱者に優しい都市モビリティへの転換を図るMaaS*を念頭におくドイツや欧州とではアプローチが違います。ドイツは、2023年の夏から月額49ユーロで鉄道やバスなどの公共交通機関が乗り放題という「ドイツチケット(Deutchelandticket)」を全土で導入しており、利用者は1300万人を超えています(現在は月58ユーロ)。
*mobility as a service

自動運転技術のパートナーはモービルアイ

ID.Buzz ADの自動運転技術パートナーはイスラエルのモービルアイで、この車両は13個のカメラ、9台のライダー(LiDAR)、5機のレーダーと計27のセンサーを搭載しています。モービルアイは、ライダーに近い性能(解像度やレンジ)を持つイメージングレーダーも開発していますが、高価なライダーを9台というのは、「安全性第一の考えに基づき、360度の周辺監視の冗長性を確保するため」と筆者の質問に対してMOIA広報は回答しました。ちなみに、テスラはライダーを使わずカメラ12個のみ、ウェイモのI-PACEはカメラ8個とレーダー6機に加えて4台のライダーを搭載しています。

今年1月のラスベガスのCESで、モービルアイのアムノン・シャシュアCEOは、完全自動運転への道程として、ウェイモは安全性重視、テスラは運行領域重視と両者を対極的アプローチとして紹介し、自社はその間を行くと説明しましたが(「CES2025レポート後編」をご参照)、ハンブルクで37平方kmの範囲内を運行するID.Buzz ADに関しては、運行設計領域(ODD*)の広さよりも、安全性を最大限にするウェイモ路線と言えそうです。*Operational Design Domain

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