2025年5月14日、中国の自動車メディア「CarNewsChina」が2026年後半にBYDが日本で発売する軽EVのスパイショットを掲載。そのフォルムが判明した。スーパーハイト、後席スライドドア、ダブルAピラー・・・軽自動車の王道だ。そこから見えてくるBYDの戦略を探ってみた。

真のライバルは軽ナンバーワンのホンダN-BOX

御存じのとおり、軽自動車は日本独自の規格である。タイヤが4つ付いているが、小型乗用車とは設計思想が異なる。それゆえ、しばしば「非関税障壁」と指摘されることもあるが、結果的に海外メーカーが軽市場に(いくつかの例外を除き)参入してくることはなかった。

BYDが、そんなガラパゴス市場への参入を正式に表明したのは2025年4月24日のこと。2026年後半に日本向けに専用開発した軽乗用EVの販売を開始すると明らかにした。当時は日産 サクラ/三菱 eKクロスEV、そしてホンダが2025年度に投入するN-ONEベースの新型軽EVがライバルになると予想されていた。

画像: 3年連続で国内EV販売台数No.1を達成した日産サクラ(2025年4月11日発表)。

3年連続で国内EV販売台数No.1を達成した日産サクラ(2025年4月11日発表)。

ところが今回のスパイショットでは、ホンダN-BOXに代表される「売れ筋」、つまり全高1700mmを超えるスーパーハイトと呼ばれるボディと、いまやこのジャンルで必須アイテムとも思える後席スライドドアを採用していることが明らかになった。

画像: スーパーハイト、後席スライドドア、そして視認性に優れるダブルAピラーなど、軽自動車の売れ筋がよく研究されている。 carnewschina.com

スーパーハイト、後席スライドドア、そして視認性に優れるダブルAピラーなど、軽自動車の売れ筋がよく研究されている。

carnewschina.com

上述の国内乗用3車(日産 サクラ/三菱 eKクロスEV/ホンダの新型軽EV車)はいずれもスーパーハイトではなく、後席スライドドアも採用していない。

すべてを日本の規格に準拠して専用開発すると発表したBYDだが、それは、寸法や構造だけでなく、マーケティング面も含めていたことがわかる。単に電気で走る軽EVを発売するのではなく、もっとも売れ筋のパッケージングを採用することで、EV以外の軽市場への浸透も目論んでいると推察する。BYDは数年以内に軽EVで40%のシェア獲得を目指すと発表しているが、軽自動車市場全体への影響も少なくないだろう。

画像: 圧倒的な人気を誇るホンダのN-BOXシリーズだが、BYDの参入による影響は少なくないはずだ。

圧倒的な人気を誇るホンダのN-BOXシリーズだが、BYDの参入による影響は少なくないはずだ。

商用車への転用は容易。トヨタ、スズキ、ダイハツへの影響も

そして、次の一手として予想されるのが商用軽自動車、いわゆる軽バン市場への参入だ。スーパーハイト+後席スライドドアのパッケージングは、ラストワンマイル配送での活躍が期待される商用バンとの相性がすこぶる良い。

現状、BYDは商用バンの導入について一切コメントしていないが、日本で軽EVのビジネスを成功させるには商用バンへの参入は不可欠。それが実現したならば、すでに発売されているホンダ N-VAN:eをはじめ、2025年中に投入が始まるトヨタ・スズキ・ダイハツの共同開発による軽EVバンへの影響は少なくない。国内各社の戦略も見直しを余儀なくされるのことになりかねない。

画像: ジャパンモビリティショー2023でスズキが参考出品した3社共同開発による商用軽EVのコンセプトモデル。

ジャパンモビリティショー2023でスズキが参考出品した3社共同開発による商用軽EVのコンセプトモデル。

現時点でスペックは一切明らかにされていない。とはいえ、軽自動車規格に準拠していることを表明していることから、ボディ外寸はライバルとほぼ同じ、つまりホンダ N-BOXをはじめとするスーパーハイト系と変わらないだろう。

現地の複数メディアによれば、20kWhのバッテリーを搭載し、WLTCモードによる航続距離は180km、100kWの急速充電受電能力をもち、車両価格は日本円換算で250万円以下、など妙に具体的な数字が紹介されている。これが事実であるならば、スーパーハイトであることも鑑みてバッテリー容量は30kWhくらい、航続距離も200kmほどは欲しいところだが。

画像: 別アングルのスパイショットも。某車によく似ているのは軽規格に収めるためか? youtu.be

別アングルのスパイショットも。某車によく似ているのは軽規格に収めるためか?

youtu.be

勢いに乗るBYDといえども、独自の商習慣が根付く軽自動車市場でいきなり成功を収めるのは容易ではない。それゆえ「軽自動車ビジネスに豊かな経験を持つ人材の募集を行います」とも発表しており、5月中には人材募集専用のサイトも開設するという。あとはEVのメリットをユーザーにどのように伝えて納得させるか、であろう。

車両価格も大きな購入動機であるマーケットだけに、その販売戦略も気になるところだ。ともあれ、今年のジャパンモビリティショーでは、その全貌が明かされるはず。そのとき、市場の反応は? ドライバーはもちろん、一番気にしているのはほかならぬ自動車メーカーだろう。

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