モーターショー会場には入れず、街を散策することに
実は今回、筆者はモーターショー会場に入れなかったことを最初にお伝えします。2024年4月の北京モーターショーでは、メディア登録は執筆先媒体の推薦状があれば難なく受理されたのですが、今回の上海では、取得が非常に難しい「J2」というジャーナリストビザの取得が義務付けられたのです。筆者も中国国営企業と合弁で現地生産している日本車メーカーから招待状をいただき、東京有明の中国ビザセンターでJ2ビザの申請を試みたのですが、招待元から東京の中国大使館に公電が届かないと受付けてもらえないという厳格ぶりでした。
そのような公電を手配できるのは中国に支局を持つテレビ局や大手新聞社くらいで、自動車媒体編集者や筆者のようなフリーランスライターは2日間のプレスデーに入場できませんでした。この厳格化はモーターショーの運営母体が変わったからだといわれていましたが、中国製品に最大145%もの関税を課した米国や、EUの中国製EVに対する追加関税への報復なのでは、と勘ぐりたくもなります。

2016年竣工の総建物面積150万平方メートルの国家会展中心(上海)は世界最大級。
ブランドの淘汰はすでに始まっている
プレスデーに入場できなかったものの、ブースマップを見る限り、出展ブランド数は2024年の北京モーターショーより少し減っている印象です。近年、中国での販売台数を大きく落としているヒョンデ・キアグループが出展を見送ったほか、上海汽車と組むGMもシボレーブランドを出しておらず、2023年の上海ショーで注目を集めた新エネルギー車(NEV)の遠航汽車は経営危機の報道もあって出展していません。高級車では、ロールス・ロイスやランボルギーニなどの姿もありませんでした。
現在の中国(乗用車)市場では、NEVの販売台数がICE(ハイブリッド車含むガソリン車)とほぼ半々ですが、2024年、上海汽車を抜いて中国で販売台数トップになったBYDは、仰望(ヤンワン)、騰勢(デンザ)、方程豹(ファンチェンバオ)といった新ブランドを展開し、大衆車から高級車までフォルクスワーゲングループのようなマルチブランドを築こうとしています。

BYDブランドは全長5mオーバーの高級SUV「Dynasty D」(写真)を、プレミアムな位置付けのデンザは2ドアクーペコンセプト「Z」をお披露目した。(写真:BYD)

BYDブランドは全長5mオーバーの高級SUV「Dynasty D」を、プレミアムな位置付けのデンザは2ドアクーペコンセプト「Z」(写真)をお披露目した。(写真:BYD)
ボルボやポールスターといった欧州ブランドを保有し、中国ではPHEVで先行したリンク&コー(Lync&Co.)をスポーティなEVブランドのジーカー(Zeekr)に統合した吉利汽車は、BYDを追ってNEVの販売を伸ばしています。このほかにも、完成車輸出でトップのチェリー(奇瑞汽車)や、長城汽車(GWM)などもNEVブランドを育成して市場拡大を狙っています。
もちろん、国営で長年海外ブランドを主力に売ってきた第一汽車、長安汽車、東風汽車も、紅旗(Hongqi)、阿維塔(AVATR)、嵐図(VOYAH)などの上級ブランドに力を入れています。上海では、ビュイック(GM)を始め、栄威(Roewe)やマクサス(MAXUS)といった地元の上海汽車(SAIC)傘下のブランドも存在感を見せています。

南京東路では長城汽車(GWM)のTANKブランドのSUVを展示していた。
一方で新興EV御三家といわれた上海蔚来(NIO)、小鵬(シャオペン)、理想(LiAuto)も着実に販売台数を伸ばしています。高級イメージのあるNIOは昨年立ち上げた20万元(約400万円)からの中堅ブランドONVOに加えて、都市の若者層にアピールするFireflyブランドを発表しました。フォルクスワーゲンの出資を受け、自社開発の半導体やADASから空飛ぶクルマも発売するシャオペンは、昨夏導入した20万元を切るスマートカーと称する「MONA M03」が人気を博しています。EREV(レンジエクステンダーEV)に強みを持ち、2023年にいち早く年間黒字を達成して2024年に50万台を販売した理想汽車も、初のEVミニバン「MEGA」に続いてEV SUVの「Li i8」を発売して、ライバルを引き離そうとしています。100近くあるブランドが凌ぎを削る中国市場は、10万元から40万元超えのクラスまで10万元刻みの価格帯で競争が一段と激化しています。

テクノロジーリーダーと称するシャオペンは、「レベル3+」のADAS体験を「レベル2」のハードウエアと価格で実現するという(写真はMONA M03)

「ホンダe」のコンセプトに似た全長4mのシティユースEVであるNIOのFierfly。