ソフトバンクの子会社、BOLDLY(ボードリー)は5月16日、エストニア共和国の Auve Tech(オーブテック)が製造する自動運転レベル4対応の自動運転電気自動車「MiCa(ミカ)」を日本へ導入すると発表した。MiCaはAuve Techが2022年10月に発表したもので、ボードリーはこれを世界で初めて購入し、今後実証走行を重ねた上で2023年の秋には茨城県境町での公道走行の実現を目指すとしている。

日本仕様として左側通行に対応

今回の発表は千葉県柏市にある東京大学柏キャンパス 生産技術研究所 ITS R&R 実験フィールドで行なわれた。それによると、MiCaはすでにBOLDLYとAuveTechが日本仕様として特別仕様車を共同開発しており、この車両は製造段階からBOLDLYの運行管理プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」に対応した機器やカメラなどを搭載している。

また、車両の車両のソフトウエアと「Dispatcher」がAPI(Applica tion Programming Interface)連携しているなど、「Dispatcher」ネーティブの車両である点も大きなポイントとなっている。

画像: 進行方向は左。日本仕様では乗降口はもちろん左側。

進行方向は左。日本仕様では乗降口はもちろん左側。

車両自体も日本仕様としてドアの位置をオリジナルの車体右側から左側に変更。左側通行である日本の道路で自動運転に対応できるよう、センサーのチューニングなども行なっているという。

今後は実証走行を進めるとともに、関係省庁から必要な許認可を取得し、2023年夏以降に公道を走行できるようにする予定だ。また、BOLDLYは自治体や企業へ23年度中に約10台のMiCaを導入することを目指す。その第一弾として、この日はARMAの導入で実績がある茨城県境町と導入へ向けた覚え書きも交わした。

悪天候にも対応できる最新センサーなどを搭載

BOLDLYが自動運転シャトルバスの導入を目指す背景には、少子高齢化に伴う運転手不足が叫ばれる一方で、地方路線の廃線などによる公共交通のサービス低下が深刻化していることがある。

加えて、2023年4月1日には改正道路交通法が施行され、自動運転レベル4の公道走行が解禁されるなど、自動運転サービスの普及に向けた動きが加速していることも大きい。BOLDLYではMiCaの導入により、社会が抱える課題の解決と「自動運転レベル4」のモビリティサービスの実現に貢献できるとしている。

MiCaは7台のLiDARセンサーと8台のカメラを搭載して周辺環境を把握するが、BOLDLYによればセンサー自体の性能もARMAよりも向上していて、100m以上先まで障害物を検知して自動で回避することができるという。

トラブル発生にも柔軟に対応できるよう、ステアリング、ブレーキ、コンピューターセンサーなど安全に関わるものは二重化して対応。急速充電にも対応していて、1時間の充電で役20時間の走行を可能にしている。

ボディサイズは全長4.2m、全幅1.8m、全高2.5m とコンパクトでありながら、広々とした車内スペースを確保し、最大8人が快適に乗車できる。小回りが利くため、狭い道路での走行にも適している点も見逃せない。

また、自動運転車の多くは悪天候での走行を不得意とすることが多いが、MiCaでは最新のセンサーとソフトウエアを搭載したことで、降雪や豪雨などの環境下でも走行可能としていることも大きな特徴としている。

秋を過ぎたことには公道を走る姿も

この日、挨拶に立った東京大学生産技術研究所の中野公彦教授は、「BOLDLYとは2017年ぐらいからARMAでの実証走行をこのフィールド内で行ってきましたが、境町において定時運行する形で我々の社会実装の活動が実を結びました」とこれまでの実績を振り返り、「4月1日から道路交通法が改正され、無人走行、レベル4の自動運転が可能な法制度の整備ができました。今後はMiCaを通してより高いレベルでの自動運転走行を目指したい」と語った。

続いて、BOLDLY代表取締役社長兼CEOの佐治友基氏は「BOLDLYが今の事業を確立できたのは東京大学が技術のみならず、エコシステムを研究する機関を持ち、そして官民連携のスキームを持っているところに非常に影響されました。特にこのITSフィールドでは様々な実証実験を繰り返し、自信を持って公道に出ることができました」とこれまでの経緯について述べた。

画像: 関係者同士が集まってエールを交歓した。左から東京大学生産技術研究所の中野公彦教授、須田義大教授、茨城県境町 橋本正裕町長、BOLDLY代表取締役社長兼CEOの佐治友基氏、エストニア共和国大使のヴァイノ・レイナルト氏、Auve Techのクリスチャン・ヴィリポルド氏。

関係者同士が集まってエールを交歓した。左から東京大学生産技術研究所の中野公彦教授、須田義大教授、茨城県境町 橋本正裕町長、BOLDLY代表取締役社長兼CEOの佐治友基氏、エストニア共和国大使のヴァイノ・レイナルト氏、Auve Techのクリスチャン・ヴィリポルド氏。

また、境町との関係では「2年半以上、自動運転が普通に動いていて、住民の生活の一部となっている環境を実現することができたのも、境町のスピード感あふれる対応が功を奏した。MiCaにおいても期待に応えられるよう頑張りたい」と言及した。

さらに茨城県境町の橋本正裕町長は「今年の2月にエストニアに行き、MiCaと先代となるIseauto(イセオート)に乗せてもらい、公道を走ってARMAより進んでいることを実感しました。乗り心地もよかった。検知もさらに進化していると感じたので、日本で走らせて各地域に横展開をしていく礎になるように、境町として協力したい」と述べ、「今後は日本の道路に合わせたチューニングを施してもらい、秋を過ぎた頃には公道を走るMiCaの姿を(境町で)披露できるのではないかと思っている」と今後の見通しについて語った。

自動運転車は社会の抱える様々な問題を解決するためのひとつの手段、道具として有望なことは間違いない。今後の展開に注目していきたいものだ。

●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。

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