電動化へ大きく舵を切ったホンダだが、その具体的な商品戦略が徐々に明らかになっている。それを改めて整理してみると、そのスピード感は驚くほどだ。ここでは前編として中国/北米市場、後編で日本市場での動向を追った。(タイトル写真は欧州向け新型EV「e:Ny1」)

いよいよ始まるホンダのEV攻勢

去る5月12日、ホンダは欧州向けの新型EV「e:Ny1(イーエヌワイワン)」を発表、2023年秋から順次発売することを明らかにした。同車のプロトタイプは2022年3月23日に欧州で公開されたが、ようやく量産モデルの市販が開始される。

公表されたスペックは限定的ながら、WLTCモード航続距離は412km、EV専用骨格「e:N Architecture F」を使った前輪駆動であると説明されている。欧州市場向けEVとしては、ホンダeに続く第2弾という位置づけだ。

画像: 欧州向けのEV、「e:Ny1」は量販を狙ったオーソドックスなSUVスタイル。

欧州向けのEV、「e:Ny1」は量販を狙ったオーソドックスなSUVスタイル。

「e:N」シリーズは、ホンダが本格的な電動化に向けて新たに取り組むEVに特化したブランド。欧州では「e:Ny1」から「e:Ny9」まで9つの「e:N」の車名が商標登録申請されていることから、今後、大小さまざまなEVを「e:Ny」として欧州展開していくことは間違いない。その第一弾が今回発表された「e:Ny1」だ。

中国でのホンダのスピード感は想像を大きく超える

「e:N」シリーズが世界で初めて公開されたのは、2021年10月。中国でオンライン開催された「中国電動化戦略発表会」で、量産型2モデルのプロトタイプ(東風ホンダの「e:NS1」と広汽ホンダの「e:NP1」)を発表した。同時に、2027年までに発売予定のコンセプトモデル3台(SUV、GT、クーペ)を一堂に揃えて、先行する現地EVメーカーに反攻の狼煙をあげた。

画像: 2021年10月の中国電動化戦略発表会で公開された「e:N」シリーズ。

2021年10月の中国電動化戦略発表会で公開された「e:N」シリーズ。

2027年までに中国国内で上記5台を含む合計10車種のEVを展開。さらに、中国からの輸出も視野に入れて広汽Hondaと東風Honda、それぞれ新たなEV工場を建設し2024年の稼働開始を目指しているなど、100%EVメーカーへの転身(2035年までに達成)を強く印象付けた。

翌2022年4月と5月には、「e:NS1」と「e:NP1」をそれぞれ発売。同年11月には上述の3台のコンセプトモデルのうちの1台であるGTモデルの進化版「e:N2 Concept(イーエヌツー コンセプト)」を第五回中国国際輸入博覧会で発表。間髪を入れず2023年4月の上海オートショーでは、中国でのe:Nシリーズ第2弾で2024年初頭の発売を予定している「e:NS2プロトタイプ」と「e:NP2プロトタイプ」、さらにe:Nシリーズ第3弾となるミッド-ラージクラスSUVのコンセプトモデル「e:N SUV 序」も公開した。

画像: 2022年4月に公開された「e:NS1」。

2022年4月に公開された「e:NS1」。

画像: 2022年5月に公開された「e:NP1」。

2022年5月に公開された「e:NP1」。

後者はシリーズ初となる2モーター式「e:N Architecture W(イーエヌアーキテクチャーW)」を初めて採用し、2024年に発売する。前年に公開された「e:N2 Concept」はさらに進化して「e:N GTコンセプト」として出品された。こちらの発売も近そうだ。

北米では深化するGMとの協業がポイント

では、ホンダ4輪事業最大のマーケットである北米では、どのような電動化のロードマップを描いているのだろうか。

ホンダの北米事業は、提携先のGM(General Motors)との協業を抜きには語れない。2024年に北米とカナダで発売される「ホンダ プロローグ」、そして「アキュラZDX(ズィーディーエックス)」は、ホンダとGMのパートナーシップから誕生する最初の電動SUVである。

画像: 2024年に発売される「ホンダ プロローグ」。GMとの協業で誕生するSUVタイプのEV。

2024年に発売される「ホンダ プロローグ」。GMとの協業で誕生するSUVタイプのEV。

画像: 「アキュラZDX」。先鋭的なスタイリングが特徴的だ。

「アキュラZDX」。先鋭的なスタイリングが特徴的だ。

「プロローグ(とZDX)」は、GMが誇るパウチ型リチウムイオンバッテリー「アルティウム」と同社の第三世代グローバルプラットフォーム(いわゆるアルティウムプラットフォーム)をベースに、ホンダが独自の内外装デザインと運動特性を与えたフル電動SUVだ。

全長4877×全幅1989×全高1643mm、ホイールベースは3094mm(プロローグの数値をmmに換算)。CR-Vとパイロットのあいだ、パスポートとほぼ同じくらいの中大型SUVだ。生産はGMの工場で行う。ちなみにホンダはアルティウムの開発に2018年前後から参加している。

SDVの考え方を取り入れた1号車がアフィーラか

一方、2025年に北米で詳細発表および受注が始まる次世代型の中・大型EVは、ホンダが開発を主導している。ハードウェアとソフトウェア(ビークルOS)を組み合わせた「ホンダe:アーキテクチャー」を初採用し、正式な発売は2026年からとなる。

「e:アーキテクチャー」は、いわゆる「SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」の考え方を採り入れたホンダ独自の次世代EVプラットフォーム。今までの自働車ビジネスのようにクルマを売って終わりではなく、その後も商品を通じてユーザーと繋がり、サービスを提供することが可能になる。

画像: ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA(アフィーラ)」。

ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA(アフィーラ)」。

その実装1号車は、おそらくソニーとの共同開発車「AFEELA(アフィーラ)」だと思われる。アフィーラについては、以下の連載記事「ソニー・ホンダモビリティの衝撃」に詳しいのでぜひ一読願いたい。

●「ソニー・ホンダモビリティの衝撃」
第1回 世界が注目する一大プロジェクト発進の必然
第2回 AFEELAで目指す、まったく新しいモビリティ像とは

「e:アーキテクチャー」はGMでも採用されるだろう。すでに事業展開が始まっているロボタクシー(GMクルーズ)を始めとする完全自動運転の実現に「e:アーキテクチャー」が重要な役割を果たすことは間違いない。

GMとの協業はさらに続く。2027年には次世代アルティウムアーキテクチャーをベースに、両社が共同開発している新EVシリーズの販売が始まる。コンパクトSUVを含む手ごろな価格帯のEVシリーズであり、生産はホンダのオハイオ工場(メアリズビル四輪車工場ほか)が担当する。

コストや航続距離などにおいて従来のガソリン車と同等レベルの競争力を持つ量販価格帯EVという位置づけで、今後世界的に高まるリーズナブルなEVのニーズに対応する。なお北米地域においては、2040年までにゼロエミッション車(EV、PHEV)の販売比率100%達成が目標だ。ホンダの動向からは目が離せない。後編では日本の状況について考えてみたい。

This article is a sponsored article by
''.